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福祉事業団


国の手の及ばぬ仕事を
すぐれた人を守り、励ます

 「人間には幸福のほかに、つねにそれと同じだけの不幸が必要だ」とドストエフスキーはいったが、私は人間として、できれば人の世から不幸を一つでも少なくしたいとおもっている。
 なんとかして世の中を明るくしたい。いつもそう念じているが、個人の微々たる力ではどうにもならない。といってほっておいたんではなおさらどうにもならないので、九牛の一毛と知りながら、学童給食のことをおもい立った。
 ひろい世の中には、子供の給食代にすら困っている家庭もある。考えるだに気の毒だ。そこで家内と相談して、とりあえずこの1月から大阪市内3千人の学童給食のお世話をさせてもらっているが、こんな給食問題などは、世の篤志家が心を一つにしたら、わけなく解決できるとおもう。
 会社の繁栄は、国があってこその繁栄だ。とすれば、なにかしらの形で国に恩返しをしなければならない。そこで手をつけたのが、去年からはじめた「丸善石油文化福祉事業団」である。さきに述べた社憲の冒頭で「会社の真の発展は、社会の福祉と世界の推進に寄与するものでなければならない」とうたったが、まさにそのとおりだと私は確信する。それは、一営利会社といえども、公共の福祉を度外視しては反映の道がないし、かりにあったとしても国家社会に益することのない無用の長物だということを訓(さと)したものである。
 つまり、私どもが社務の運営にあたって、つねに国利民福の増進を念頭においているゆえんはここにあるのである。なにごとも愛と感謝−私はひとすじにそのこころで生き抜いていきたい。そこで私のつくった文化福祉事業団だが、その事業目的は、要するに「すぐれた人をつくること」「世の中のためになるりっぱな仕事をしてもらうこと」「日本のいいものを守ること」「苦しい生活をしている人たちに激励と支援の手をさしのべること」「国家社会のために尽くした人たちに感謝すること」などにおいている。
 優秀な学者が国のため社会のためになる研究をやっているが、費用の関係で行きづまりがちになっている。またある学者が国際的な学術会議に出席しようと思っても、金の関係でその活動が制約される。そんなときにお手伝いできたらどんなにいいだろう。そう思いつめたところから、文化福祉事業団の結成となった。およばずながら、国の手がとどかない一般福利事業の不足を補って、この方面における新しい分野を開拓していきたいというのが私のねがいであった。そしていまのうちに金を積み立て、近い将来、財団法人として積極的にやっていきたいとおもっている。
 人生に夢をもて
 私は自分のことばにしたがって、この文化福祉事業団をつくった。そのうちに、学界、芸術界、政界、財界などの識者をあつめた顧問団をもうけ、この事業を推し進めて行くつもりである。
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