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将来は大学に


「知識より知恵」を強調
おおらかにすくすく伸ばす

 私はやりだしたら徹底的にやらねば気のすまない性分なので。この丸善石油学院も、将来「石油大学」に発展させたいと思っている。いまのところ、世界中に石油専門の大学があるということを聞かない。それを日本につくって「石油のことは日本に行って勉強したらいい」と、各国から留学生が集まってくるところまでもっていきたいというのが、現にいだいている私の夢の一つである。
 現在の学院は、校地5万平方メートルに建坪1万3千平方メートル、それに2万平方メートルの総合グラウンドをもっている。建物のおもなものは校舎、寮舎、体育館などで、校舎は普通教室、各種実験、実習室、図書室、音楽室その他を有し、またむねの寮舎には45の寮室のほかに食堂、浴場、談話室、売店、理髪室などの設備がある。
 すでに150人の卒業生をおくり出し、いま高等部に200人、専門部に30人の学生がいる。専門部生の少ないのは去年の4月に開設したばかりだからで、この4月には新たに50人が加わる。修業年限は高等部も専門部もともに2年で、高等部は一般高校程度の教養のほかに化学、機械、電気について学ばせ、そのうえに仕上げとして石油の基礎知識をさずける。専門部はいわば石油単科の短期大学といってよく、石油に関する専門の学問を修める場所になっている。
 高等部の全員と、高等部から直接専門部に進んだものはすべて給費生として扱われる。つまり衣食住の学院負担、教科書の給付、傷病の際の医療補償のほか、一律に高等部生に2千円、専門部生に3千円の小づかいを毎月支給している。外部の高校を出た丸善の従業員で、あらためて学院の専門部に進んだもののほかは、すべて寮生活を原則としている。若き日の一時期を、共同生活の中から学びとる収穫は大きいと思う。
 一般高校の入学志望者は、当然のことながらその周辺の中学卒業者にしぼられる。東京の中学生が大阪の高校に受験するということは、普通ではまず考えられない。そこへいくと、うちの学院生の出身地は、いまでも北は北海道から南は九州まで27府県にまたがっている。こうして、生まれ故郷や生い立ちを異にする青少年たちが、同じ屋根の下で同じ環境のもとに育っていくというところに、私は大きな意義を感ずる。親がどんなに気をつかっても、貧しい家庭の子はとかくひがみがちになる。そういうひがみ心を持たせずに、みんなおおらかにすくすくと伸ばしたいというところに、われわれの教育方針があるわけだ。
 学院はいうまでもなく勉強にいそしむ場所だが、だからといって私は、単なる点取り虫になってもらいたくない。それでいつでも「知識より知恵」ということを強調している。学問は大いに必要だが、社会人としてりっぱに世の中に役立つ人間になるためには、それ以上に知恵をみがかなければいけない。ところが、これがまたむずかしい。知識を身につけるには学校もあれば本もあるが、知恵のほうは教えてくれる学校もないし本もない。知恵とは、自分の経験した努力と苦しみのなかから体得するものだと、私は自分の思うまま、感じたままを教えさとしている。
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